税理士法人 良知 コラム

2018年3月13日 火曜日

『中小企業における財務の強化方法その3』

『中小企業における財務の強化方法その3』・・・財務指針を持ち、金融機関と共有しましょう。

中小企業における財務の強化方法についてシリーズでお伝えしております。第1回目は、「試算表」を毎月作成することの重要性を、続く第2回目は、「資金繰り表」を作成することの重要性をお伝えしました。3回目となる今回は、「中小企業が実践すべき財務戦略」をお伝えします。

前回までの内容に反するようですが、試算表や資金繰り表を作成すること自体に大した価値はありません。財務に関する明確な指針を持って初めて、試算表や資金繰り表が価値あるものに変わります。そして、当協会では、「手元キャッシュをより多く持つこと」を、中小企業の財務指針として推奨しています。

手元キャッシュを手厚くする主な理由は、「キャッシュが切れない限り、倒産することはない。」、「キャッシュに余裕があれば不測の事態が起きても落ち着いて対処できる。」「キャッシュがあれば千載一遇のビジネスチャンスを逃さない。」ためです。経営の目的を達成するために、キャッシュは絶対に欠かせない要素のひとつです。

しかし、「元々潤沢な自己資金を持っている。」もしくは、「毎月キャッシュが余るほどの大きな利益を上げている。」のでなければ、そう簡単に手元キャッシュを厚くすることはできません。手元キャッシュを増やす最も現実的な方法は、「借入を最大限活用する。」ことです。

借入を嫌う経営者様は多いですが、そこには、困った時には金融機関が融資をしてくれるだろうという錯覚があります。実際は、金融機関はこちらの都合で融資をしてくれません。不測の事態が起きた時、千載一隅のビジネスチャンスに出会った時、
都合よく融資を受けられる保証はないのです。中小企業における金融機関とのお付き合いは、自社のタイミングで融資を受けに行くのではなく、金融機関側のタイミングで融資を受けて手元にキャッシュを置いておき、必要な時に使うというのが正解です。

今すぐ必要でない資金を借りた場合、余分な金利を払うというデメリットはありますが、いざという時に融資を受けられないリスクに比べれば小さな問題です。また、借入が増えると財務内容が悪くなると考える方もいらっしゃいますが、借入と同時に預金も増えますので、実質的な借入額は増えません。

「借入を活用してでも手元キャッシュを厚くしておく。」ことの重要性にご賛同いただけたならば、次は、「どうすれば金融機関から最大限の融資を受けられるか。」という課題にお気づきになるかと思います。金融機関から最大限の融資を受けるために必要なのは、自社の財務状況を定期的に金融機関に開示し、融資が可能であれば、いつでも提案を持ってきてもらえる関係を構築することです。

試算表や資金繰り表は金融機関とのコミュニケーションを取る必須アイテムです。まずは、試算表と資金繰り表を毎月しっかりと作成し、さらに、「キャッシュをより多く持つ。」という財務指針も金融機関と共有することで、強固な財務体制を構築することができます。


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2018年3月10日 土曜日

『中小企業における財務の強化方法その2』

『中小企業における財務の強化方法その2』・・・最低でも向こう1年間の資金繰り計画を立てましょう。

前回のブログでは、財務管理の強化は試算表の作成から始まることをお伝えしました。しかし、試算表だけ作成すれば十分かと問われると、そうではありません。試算表にはキャッシュベースの収支が分からないというウィークポイントがあります。
赤字になっても即倒産はしませんが、資金が底をつくと黒字でも倒産します。そういう意味では、利益管理よりも資金繰り管理の方が重要です。そして、資金繰りの管理を行うツールが、「資金繰り表」になります。資金繰り表は、毎月の入金額と支出額と項目ごとにまとめた単純な表ですが、財務管理にとても役に立ちます。

殆どの社長様が何らかの資金繰り表を作成していると思います。
実際に表を作成していなくても、頭の中にはおおよその入金額と支出額が入っているはずです。ただ、残念なことに、今月、もしくは来月、といった短い期間の資金繰り状況しか把握できない方が大多数です。

短期の資金繰り計画しか立てていないと、「お金が足りない!」という事態が直前に迫るまで分かりません。資金調達は、短期間で行おうとすると余計に難しくなりますので、経営者としての他の大切な業務を削ってでも資金調達に走り回らなくてはならなくなります。行き当たりばったりの財務活動です。

計画的に財務活動を行うために実践していただきたいのは、向こう1年間の「資金繰り計画」の作成です。1年程度先までの資金繰り計画を立て、資金の流れを予測しながら、資金調達や設備投資の計画を立てます。1年先の売上など分からないという声もあるかもしれませんが、向こう1年間の「資金繰り実績」も作成してみてください。過去の売上の動きから、未来の売上の動きが何となく予測できます。

財務管理の最大の目的は、「資金を切らさないこと」です。試算表で利益を管理しながら、自社の資金調達力を高め、資金繰り計画を立てて計画的に資金調達や設備投資を行えば、資金に慌てることなく落ち着いて経営に専念できます。


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2018年3月 8日 木曜日

実践コラム『中小企業における財務の強化方法その1』

『中小企業における財務の強化方法その1』・・・どんぶり勘定から脱出するため試算表を毎月作成しましょう。

殆どの中小企業が財務管理に改善の余地があると感じます。財務管理が弱いと、自社の財務状況を金融機関に正確かつタイムリーに伝えられないため、本来融資を受けられる業績であっても、融資を断られる場合があります。融資をスムーズに受けられなければ、成長の機会を逃す、資金が詰まる、という危機に陥りますので、財務管理は強い方が安心です。

財務管理強化の第一歩はどんぶり勘定から脱却することです。通帳の残高を見ながら感覚的に経営するのではなく、財務数値に基づいて経営判断を下した方が、より正確な経営判断を下すことができます。

正確な財務数値を把握するには、月次試算表が必要です。試算表を見れば、キャッシュの動きだけでは分からない「利益」と「資産・負債」の状況が分かります。

どんぶり勘定が引き起こす問題の代表的な事例をご紹介します。

■実は赤字だが資金繰りが回っているため気づかない。
本当は赤字に気づいているのかもしれませんが、赤字を直視しないことによって対策が遅れます。赤字を改善する努力よりも、借入で資金繰りをごまかすことを優先し続けると、必ず最後に資金が詰まります。

■無駄な資金繰りに時間を費やしている。
取引条件によって黒字でも資金繰りが苦しくなります。黒字ですので融資を容易に受けることができ、資金繰りの苦労からも簡単に解放されますが、それに気付かず資金繰りに多大な労力をかけています。

■融資を受けられるタイミングを逃している。
6カ月前なら融資を受けられたというケースです。本当に良くお見受けします。融資はいつでも受けられる訳ではありませんので、財務状況をタイムリーに管理し、一番借りやすい時に借りておくのが鉄則です。資金が必要なのに融資を断られて困っている企業様の半数は、過去に資金調達のタイミングを逃しています。

他にもたくさん事例はございますが、お伝えしたいのは、「試算表」を毎月作成することの重要性です。あらゆる財務的な判断は試算表を基に行われます。財務強化の第一歩として、試算表を毎月作成できているかどうかをご確認ください。

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2018年3月 7日 水曜日

『事業性評価融資で変わること、変わらないこと!』(続)

『事業性評価融資で変わること、変わらないこと!』(続)・・・事業体として至極当然のことを突き詰めていくことこそが、金融機関が行う事業性評価融資の基準に適合することになります。

前回の続きです。

「事業の内容や成長可能性等を適正に評価(事業性評価)して・・・」、様々な人が行う様々な事業の、その事業内容や成長可能性を正しく評価できる方法は存在するのでしょうか?
答えは、NOではないがYESとも言い難い、と言ったところでしょうか。この前提で話を進めます。

前回とは少し違う視点で整理します。

1.過去から現在までがうまく行っておれば、さらに、そのうまく行くレベルが向上しておれば、概ね当面はうまく行きそうと推定できるため、事業性評価は〇になるはずです。
具体的には、過去の決算書を数期並べて、右肩上がり(又は横ばい)の増収・増益(又は安定収益)、直近の資産状況(BS)に不備がなく、さらに、この成長曲線(横ばい)の延長線上の事業計画を持っておれば事業性評価は〇でしょう。

2.事業体として過去の無い新設事業者の評価(創業融資)時には、経営者の経歴と自己資金を勘案します。これは、事業体の過去を経営者の経歴に、足元のBSを自己資金に置き換えた考え方です。さらに、創業事業計画の妥当性は、その計画の蓋然性が適用されます。これぐらいの売上は立ちそう、経費はこれぐらいあれば足りそう、このような一般常識をあてはめて判断します。
経歴と自己資金、計画の蓋然性が整えば、創業者の事業性評価は〇になるはずです。
※自己資金要件については、政策的に審査が緩くなる趨勢です。

3.事業の将来性を評価する時は、その事業の事業立地が勘案されます。これは1.を前提にした上での、加点又は減点の要素です。
例えば、インバウンド、IoTやシェアリングエコノミーは、事業立地として加点要素でしょうが、どこにでもある〇〇屋さんでは加点されません。逆に、不況業種は減点でしょう。何屋さんをやるか、事業立地も事業性評価には重要な要素です。
事業立地は、1.の条件が整った上での要素ですが、1.の悪さを覆せる事業立地の優位性があればこの限りではありません。
ただし、この判断は極めて難解です。

4.知的所有権の有無も事業性評価のひとつになるはずですが、3.と同じく、1.の条件を補完する要素と考えた方が良さそうです。もちろん、1.の悪さを覆せるぐらいの知的所有権であれば別ですが。

事業性評価(融資)、この発想は決して目新しいものではありません。金融機関は従前より、金融庁の検査マニュアルの有無、内容に関わらず、事業性評価を行ってきました。金融機関が求める取引先は、あくまでも返済してくれる会社・安定した会社・伸びる会社であったため、事業性評価は必要でした。

◆金融検査マニュアルが整備される前は・・・
1.を軸に、3.や4.その他あらゆる要素を加点・減点要因に組み込んで、金融機関独自の融資判断基準を有していました。結果、時に大胆な企業支援が実施され、後のBIGカンパニーを創出してきました。

◆金融検査マニュアルが整備された後は・・・
1.を判断基準にしなさいとする厳しいルールが課されたため、3.や4.の要素を融資判断に組み込むことが難しくなったために、画一的な融資審査が行われるようになりました。この背景には、バブルの崩壊で傷ついた金融機関自身のBSを是正する狙いがあったためです。また、この期間に金融機関は3.や4.その他の判断力=目利き力をなくしてしまったようです。

◆今後は・・・
金融検査マニュアルが整備される前に戻るはずです。1.を軸に、3.や4.その他あらゆる要素を加点・減点要因に組み込んで、金融機関独自の融資判断基準が構築されることでしょう。
ただし、
◎あくまでも1.が判断基準の肝であることに変わりはありません。
◎3.や4.その他は、企業側が、積極的に情報発信していかないと、金融機関には気づいてもらえません。

事業性評価融資の導入で、金融機関の融資は変化するはずです。ただし、その変化は突拍子もないものではありません。事業体として至極当然のことを突き詰めて行くことこそが、金融機関が行う事業性評価融資の基準に適合することになります。ただし、今まで以上に金融機関にわかってもらう努力、とりわけて情報提供を継続的に行うことが重要になってきます。このことは、肝に銘じてください。
※金融機関はモニタリング機能を充実させるはずです。

◎「税務」に「財務」を付加してクライアントの財務・金融機関対応を継続してサポートする我々『新・税理士』としても、金融機関の動きを注視しながら、クライアントのサポートに励みます。
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2018年3月 6日 火曜日

『事業性評価融資で変わること、変わらないこと!』

『事業性評価融資で変わること、変わらないこと!』・・・企業側の情報提供力・説明力が資金調達力とより相関するようになります。

平成27年度金融行政方針(15年9月)では、事業性評価について、「・・・担保・保証に依存する融資姿勢を改め、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適正に評価(事業性評価)し、融資や本業支援等を通じて、地域産業・企業の生産性向上や円滑な新陳代謝の促進を図り、地方創生に貢献していくことが期待される。・・・」と解説されています。

金融行政の転換期です。少しずつ、中小企業金融の現場にも動きが出てきました。事業性評価融資の導入で変わること、変わらないことを整理いたします。

■以下の1と2は、今後とも変わりません。

1.金融機関の保有する傘はすべて「日傘」です。変わりません。

良い会社(返済してくれる会社)に対して融資を行おうとする基本姿勢は変わりません。経営が、現状もうまく行っていない会社、将来もうまく行きそうにない会社に対する融資は実行されません。金融機関が有する傘は「雨傘」でなく「日傘」※である点は変わりません。
※一部の制度融資・制度保証は除きます。

2.資本の充足状況(BS)と生み出すキャッシュフロー(PL)の金額、この二つの判断基準は、今後とも融資審査の礎です。

現行の評価方法は存続します。資本が充足していること、生み出すキャッシュフローが多い事、これらの(現時点における)良い会社の条件は変わりようがありません。この二つは、これからも財務上の良しあしの判断基準であるはずです。ただし、少額の資本正と資本負(債務超過)の差異で大きく結果が変わることはなくなるかもしれません。また、債務償還年数10年未満が正常先、このような画一的な判断も減るはずです。

上記の1と2は、融資可否判断の原理・原則です。これからも不変です。

■以下の3は、少しずつ変わってきました。

3.担保・保証依存からの脱却が徐々に進みます。

担保と保証に依存する融資姿勢は徐々に改められるはずです。
逆に、優良な担保や保証が有っても、事業の評価が悪ければ融資を受けられないことになります。この傾向は現時点でも顕在化してきました。

■以下の4の変化が、事業性評価融資の浸透で起きてくるはずです。今までの基準+4とご理解下さい。

4.事業の将来性を見極めるための評価、事業性評価が導入されます。

「現状の財務状況は良くないが、将来を見越して融資を実行する」または、「現状の財務状況の程度を超えて、将来を見越して多額の融資を実行する」、この将来を見越しての部分が事業性評価融資です。
経営の現時点における結果を財務(資本の充足状況とキャッシュフロー)から判断して、良ければ融資可、悪ければ融資不可とする現行フローの変更が金融機関に求められます。現行フローに付加して、将来良くなる見込み、良くならない見込み、この判断を行う基準の構築が必要になります。
当該企業体の経営が将来どうなるか?これを見込むのは、現時点の財務を分析して判断するのとは比べ物にならないぐらい難解です。ただ、この新しいソリューションを開発・構築することを、地域金融機関は求められています。構築できなければ淘汰されるはずです。

■地域金融機関が事業性評価を導入する方向性は、どの金融機関も概ね同じです。

(1)過去から現在までの流れ、将来の計画を踏まえて判断することになります。
〇現時点の財務の良し悪しではなく、将来の経営全般を予測するために、過去から現在までの流れの把握・分析が必要になります。事業性評価結果の進捗確認や見直しのための継続的なモニタリングがますます重要になります。

(2)財務以外の企業情報を収集して判断することになります。
〇会社の将来展望・ビジョン
〇経営者の情報、経歴や強み、人となり、後継者の有無
〇市場における優位性や競合状況
〇商品・サービスの特徴
〇会社の課題と強み・弱み
等々、財務以外の情報の収集・分析が必要です。
金融機関は、これらを総合的に勘案して事業性評価を行います。
今までよりも、より深く対象企業を理解する必要性が生まれます。

(1)(2)を突き詰めて行く過程において、独自の事業性評価を開発することを地域金融機関は期待されています。この独自の事業性評価が、そのまま金融機関の個性となって、より広範な企業支援を行える金融業界が近い将来生まれることでしょう。一方、この過程で、多くの地域金融機関の淘汰・統合も進むようです。

■まとめ・・・・

現時点の財務状況及び担保・保証の有無で融資の可否を判断し、その可となる企業に集中して融資を行った結果、金融機関同士の(金利)過当競争が生じています。今後は、現時点の財務状況や担保・保証の有無のみに依存せず、それに付加して新たな融資基準(事業性評価)が構築されるはずです。容易ではありませんが、この取り組みは、融資規模を拡大する動きであることに間違いありません。歓迎すべき動きです。
一方、情報をより正確に提供できる企業が、事業性評価の対象になりやすくなるはずです。情報提供力・説明力が資金調達力とより相関するようになります。融資を受ける側の力量も問われます。

◎「税務」に「財務」を付加してクライアントの財務・金融機関対応を継続してサポートする我々『新・税理士』としても、金融機関の動きを注視しながら、クライアントのサポートに励みます。
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